貧血好き

急に走って電車に乗ったせいか、乗った途端に気分が悪くなってしまいました。何とか回復しようと大きく呼吸していたが状態は一向に変わらず、座ったり立ったりしていたら余計に気分が悪くなり、幸いにして目的の駅はすぐ次であったので、降りたらそこで少し休もうと考えました。

駅に着いたので目を開けてドアに向かおうとしたところ、なんだか視界が一面白っぽくなっておりました。周りの状況はほんの輪郭程度しか分からない状態。これほどの貧血は久しぶり、などと面白がりつつ、僅かな視界を頼りに何とか無事に電車を降りました。

普段貧血になるということは滅多にないのですが、それだけに貧血で感覚が喪失していく経験というのを貴重で興味深いものと思っていたりします。今までの人生では、倒れるほどの大きな貧血は2回ほど経験しており、今回はそれらには一歩及ばないものの、あの視界のホワイトアウトさ加減はなかなか得がたい体験でありました。

さて、一旦電車から出てみると、外気に触れたせいか急速に貧血状態から回復することができまして、落ち着いて辺りを見まわしてみると、降りたのは次の駅ではなく次の次の駅であったことに、漸く気付きました。

嗚呼、あろうことかその時のわたくしは、駅を間違えたことで待ち合わせ時間に遅れることを心配するよりも、自分ではずっと意識を保っていたつもりでありながら、目的の駅に着いたのを認識できなかったほどの貧血を体験したことに喜びを見いだす気持ちの方がまさっていたのであります。

(2002年10月28日)

北村曉 kits@akatsukinishisu.net