「2つの疑問」への回答

さて納得いく回答をすることができますかどうか、ともかくまずは一つ目を。

『W3C勧告 私的 日本語訳 9.2.1 フレーズ要素』より

こうした構造をマーク付けすることで、ユーザエージェントの他、スペルチェッカや音声合成装置、翻訳システム、検索エンジンの索引付け等のツールに対しても、有用な情報を提供できる。

上記を引用した上で、2点程疑問を呈します。

1.若しも「音声合成装置」等を附随したユーザエージェントで読上げる事の出来ないと思しき漢字、又は漢字の読みを示したいと思つた場合に、abbr要素を使用する事は出来ますか。出来ませんか。

引用された仕様書の文の前には、「abbr要素やacronym要素を使うと、著者は、省略語や頭字語の発生を、明確に示すことができる」、とあるように、まずは「文章中に省略語や頭字語があり、それをabbrタグやacronymタグでマークアップする」という前提があり、引用に挙げた「タグの機能」とも言える記述はその結果としてあるものと、自分は考えるのですが、いかがでしょうか。

ペトロニウスさんはHTMLタグの持つ「機能」に注目するあまり、要素の本来の意味を見落としているようにも見受けられます。

やや本筋と離れるように見えますが、ここで「マークアップ」という言葉の定義について、以下に二つ記述を引用致します。

HTMLって何だ -- ごく簡単なHTMLの説明(強調筆者):

Markup: マークアップとは、普通の文書に目印を付ける(マークアップする)ことで、その部分が文書中でどんな働きをしているか(見出しなのか、段落なのかなど)をはっきりさせようという考えです。

HTMLとは?/HTMLの定義のための覺書@PC Tips(強調筆者):

マークアップ(マーク附け)とは、一般の文書をHTML文書に仕立て上げる行爲を言ひます。一つの文書を要素に分割していく作業、或は、文章の中に潜在的に存在する要素をタグによつて明示する作業の事をマークアップと言ひます。

上記の考えにもとづくのであれば、「文章中に省略語・頭字語があればabbr・acronymタグでマークアップし、それ以外の部分にはabbr・acronymタグを適用しない」とするのが自然かと思います。そして、自分には「『漢字』が『その読み』の省略語である」とは思えないので、それにはabbr要素を適用しないのが妥当と考えます。

そもそも、ユーザエージェントの機能を基準に考えてしまうことは、「Netscape・IEでの見映えを考えて、左右のマージンをとるためにblockquoteタグを使う」といった考えと似たものになってしまい、著者が敢えてそれを承知で使うのならば自分はそれをとめることなどできないですが、正しい(妥当な)HTMLが持つ「環境に依存しない」という利点を失うことになりはしないか……と危惧します。

また、仕様書の用例に従うとすれば、abbr要素のtitle属性は「省略語の本来の形態」を表わすものであり、必ずしも「省略語の読み方」を表わすものではないため、「漢字とその読みを示すため」にabbrタグを適用しても、音声読み上げブラウザにおいて(著者の)意図したように動作しないことは、十分に考えられるかと思います。

……というわけで結論は、「できる/できない」で言うなら「できない」。或いは、「自分はそうしない」です。

* * *

そして二つ目。

2.上記日本語訳の本文には、「省略語や頭字語」及び「省略された表現」及び「省略しない形態」などと表現されてゐますが、北村さんは「略語」と表現されてゐます。W3C勧告の原文其の物の理解として上記日本語訳の表現と北村さんの表現とは全く等価のものと理解して宜しいのですか。宜しくないのですか。

これについては不審を招いてしまい申し訳ないです。「省略形」の説明として、自分の言葉ではなく客観的な説明を引用したかったので、大辞林(goo)の「略語」の説明を一部引用し、「略語はあくまでもとの語形の一部分を省略した言葉ではないでしょうか」……と書きました。が、それにより話題の対象を「省略形」から「略語」にずらしてるような文になってしまいました。

ともあれ、自分は「省略語、省略された表現(形態)」は、「もとの語句の一部分を省略したもの」であると思います。ので、二つ目の問いには「等価と考えて頂ければ幸いです」とお答えします。

(2002年1月7日)

北村曉 kits@akatsukinishisu.net