ポスト

 道端で、ポストを見かけた。
 あまり退屈そうなんで、話相手になってみたんだ。

「実は、郵便という制度には、秘密の部分が多々あるんですよ」
「ふーん。例えば?」
「そうですね……。あなた、郵便物が送られる仕組みを知ってますか?」
「郵便局の人がポストから回収して、郵便局に持っていって、それから宛先の場所に配達されるんだろう?」
 ポストはちちちと舌打ちした。
「それがそもそもの間違いですよ」
「ええっ?」
「よし、あなたにだけ本当のことを教えてあげましょう。実は我々ポスト族の体の中は特殊な空間になっていましてね。同じ仲間の『郵便受け』の中の空間につなげることが出来るんですよ。だから我々の体の中に入った郵便物は、我々が郵便物に書かれた宛先を読んで、そこに直接送り込む……恰好良く言えば、ワープさせてるって訳です」
「……」
「おや、信じてませんね」
「だって……だったら郵便局員は何の為に居るんだ」
「ああ、あれですか。あははははは。あれは言うなれば、カモフラージュってとこですね」
「か……かもふらーじゅ?!」
「本来、郵便という制度は、百年ほど前に地球に飛来してきた我々ポスト族の存在を世間から隠し、且つ、我々と人間が共存する為に考案されたものなんですよ」
「……とても信じられないな」
「内緒ですよ」

 そんな話だ。

 後日、ポストのところに、郵便局の車が来るのを見かけた。
(……)
 僕はポストの言ったことを確かめるべく、離れた所で様子を伺うことにした。
 郵便局員はポストの横にある扉を開けて、中の袋を取り出していた。
 と、その時突然、

 どかーん

 袋が爆発した。
 こはいかに。中に爆弾でも入っていたのだろうか?
 離れていた御蔭で僕は無事だった。僕はポストの方に駆け寄った。
 辺りには、袋に入っていた郵便物の残骸が、ひらひらと宙を舞っていた。
(なーんだ。やっぱり法螺話だったのか)
 それでも一応、開けっ放しになっていたポストの中を覗いてみた。
「うわ」
 その時何かにつまづいて、僕はポストの中に落ちた。

*

「お前、何やってんだ? そんなとこで」
「助けてくれー。体が抜けないんだ」
 どうなってたかは……分かるだろう?

 落ちた時、咄嗟に免許証を取り出していた。
 もしも、住所を書いた物を持っていなかったら……。■

北村曉 kits@akatsukinishisu.net