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 もしも、鏡の中に入ることが出来たら……というはなし。

 ふふっ。一度これをやってみたかったんだ。
 わたしは同じ大きさの鏡を二枚、平行に置いた。そして、
 それっ!
 という掛け声とともに、鏡の中へ跳び込んだ。
 わあ、合わせ鏡の中って、本当にずっと奥まで続いているんだ。よーし、どこまで続いているのか確かめてみようっと。
 わたしは奥へ奥へと走ってゆく。

 ふう。疲れた。何処まで行っても同んなじ景色だし、もう飽きた。
 そろそろ帰ろうっと。
 あれ! そう言えばもとの場所って何処だろう。
 幾ら戻っても同じ場所に見えるし……
 ここまで来た時間を考えて……
 ……
 この辺かな? うん、多分そうだよね。

 その時、鏡の片方が倒れた。
 バタン!

 帰る場所を間違えたわたしは、鏡像とともに消えてしまった。

*

 それでもわたしは、ここにいるよ。
 もとは鏡像だったわたしがね。■

北村曉 kits@akatsukinishisu.net