脳内幽霊

 幽霊はつまるところ幻影だ。死者に会いたいという気持ち、或いは死者を恐れる気持ちが、故人の記憶を再生させ、頭の中に映像を作り出すんだ。
 僕はこの説を基に、このマイクロチップを作った。これを頭に埋め込むと、その人が持つ、ある特定の人物の記憶を呼び覚まし、映像として知覚させる……つまり人工的に幽霊を発生させられるんだ。

 これを何に使ったかというと……

 或るところに富豪の老人がいた。彼は晩年になって若い妻をめとったんだが、その数ヶ月後、自分が不治の病にかかっているのを知ったんだ。
「それで僕にその病気を治せと?」
「君がそういう種類の医者でないことは聞いておる。それに、たとえこの病気を治した処で、そう長く生きられるわけでもない。儂の望みは、その、何と言ったらいいか……儂は妻を、本当に、愛しとるんだ」
「そして奥さんも貴方を、ね」
「ああ、有難いことにな。だが儂が死ねば、若い妻のことだ。じき新しい恋人ができて、儂のことなど忘れていくに違いない。それが我慢ならんのだ」
 要するに、自分が死んでも妻にずっと愛されていたいってことだ。それで先刻言ったようなマイクロチップを奥さんの頭に埋め込めば、貴方のことをずっと忘れないでしょう、と勧めてみた。老人は是非それをやってくれと頼んだね。
 老人に協力してもらって、奥さんを薬で眠らせている間に手術を行った。勿論巧くいったよ。手術の跡さえ残さなかった。
 暫くして、奥さんの許には老人の幽霊と莫大な遺産が残り、僕は結構な額の謝礼を頂戴した。

 え? 何でそのチップが今ここにあるのかって?
 話の続きを聞けよ。

 老人が死んで数週間後、奥さんは或る霊能者にこんな相談をしたんだ。
「実は毎晩、死んだ主人の幽霊が出るんです……ええ、それは苦しそうな表情で……まるで私を責めているようで、もう神経が参ってしまって……何とか主人を成仏させられないでしょうか」
 彼女の頭には、老人の死ぬときの表情が焼き付いていたんだろうね。
 御察しの通り、その霊能者は僕の協力者さ。彼女が相談してきたら僕に伝えるよう頼んだんだ。もし他の霊能者に頼んでたら? 別に問題無いさ。その幽霊を取り除けるのは僕だけなんだから。

 くして、幽霊は彼女の許を去り、僕は再び老人の遺産から謝礼をせしめたのさ。

 ――“狂医学者”四月朔日わたぬき未明みめいの談話より■

北村曉 kits@akatsukinishisu.net