よそう

「ご飯をよそう」という文を書こうとして、ハテご飯をしゃもじで茶碗にのせるときの動詞は「よそう」でよかっただろうか、と急に不安になりました。

「よそう」という言葉には何かしら不安定さを感じさせるところがあるような気がします。おそらく使われ方として「ご飯を――」という以外にはないからではないかと思うのですが。いやまて「みそ汁を――」という使い方もあるか。何にせよそういった料理の時以外はほとんど、いや全く聞かれない動詞であり、ことに最近の生活では手料理に接する機会が少なくなっているので(哀しいことに)、余計に「よそう」の確定性へ疑問が膨らみます。「よそう」という発音も、考えてみるといかにもとってつけたような発音のような気がする。もともと「ご飯を〜〜う」と適当な発音をしていたのが、たまたまヨとソに落ち着いただけではなかろうか。

口語で使っているぶんには、まあ「ご飯」という明確な目的語もあることだし、ほとんどの場合通じると思うが、果たして書き言葉として使っても差し支えないほどに一般性を持った言葉だろうか。たまたま自分の人生において周囲にいた人達には問題なく通じていた気がするけど、地方によっては別の言葉になっていたりしないだろうか。そういえば「よそう」という言葉は「やめよう」という意味にもとれるな。「ご飯をよそう」と言ったら「えーお腹すいていたのに」などという反応が返ってきはしないだろうか。はたまた「よそう」の漢字ってあるのだろうか。もしかすると「よそう」という言葉自体が辞書に載っていないのでは。

と、「よそう」への不安をいやがうえにも盛り上げたところで広辞苑をひいてみます。あ、あったあった。「(3)飲食物をすくって器に盛る」と書いてあります。漢字で書くと「装う」なのか。なるほど。これでこれから「よそう」を安心して使うことができるというもの。

ところで「よそう」の漢字は分かりましたが、「装う」と書くと「よそおう」と読まれてしまいそうであります。うっかり「ご飯を装う」と書いてしまったら「貴様一体何奴だ」「ご飯に見せかけた異物を食わそうという気か」という反応が返ってこないとも限らない、かもしれない。例えばウェブの文章で使うとしたら、誤解を避けるにはやはりひらがなで書くのが無難だろうか。ふりがなをつければいいのかもしれぬが、今のところruby要素をサポートしているのはIE5以降だけだし。

難しい漢字やふりがなのことを考えると、コンピュータはまだまだ英語向きの機械であるなあ、とつくづく思います。となんだか急に方向が変わったオチかたになってるけど、まあいいや。

(2001年3月15日/加筆8月26日)

北村曉 kits@akatsukinishisu.net