金字塔

駅前の小さな本屋に寄ってみたところ、『ピラミッド大百科』という本がありました。興味をひかれて本を手に取り、帯を見てみると、こんな文句が書かれていました。

エジプト学の金字塔

思わず笑いそうになり、さすがにあたりをはばかってこらえたものの、顔が変なふうにひきつってしまいました。なるほど全くそのとおりではありましょうが、よくもまあぬけぬけと。

ちなみに大辞林第二版の解説より。強調筆者。

きんじとう ―たふ 【金字塔】
(1)「金」の字の形の塔。ピラミッドをいう。
(2)後世に永く残る立派な業績。偉大な作品や事業。「―を打ちたてる」

「金字塔は本来ピラミッドのことだが、今はあまりその意味では使われないなあ」とは、上記の意味を知って以来かねがね思っていたことなのですが、まさかこんな実例を目にできるとは思いもよらないことでした。これぞまさに掛詞かけことばの妙。しかもここで使わずしてどこで使うかというほどの値千金のはまりよう。

もしかして偶然そうなっただけかも、とも思ったのですが、ピラミッドを専門に研究するような人が、ピラミッドが日本語で金字塔になることを知らないとは考えにくい。また著者が知らなかったとしても、日頃言葉に慣れ親しんでいる編集者なら知っていそうなもの。や、もはや事実がどうであれ、私はこの帯書きが掛詞になることを意図して書かれたものと信じたい気持ちで一杯なのです。

内容とその帯書きのセンスにもひかれたので、ぜひとも買っていきたくなったのですが、定価12000円はさすがに高く、名残惜しくも店を去ったのでありました。

(2001年2月25日/加筆12月27日)

北村曉 kits@akatsukinishisu.net