義膝蓋骨のなぞ

『シャーロックホームズの冒険』(新潮文庫)の中の「赤髪組合」という話を読んでいたのですが、その中に「義膝蓋骨(ぎしつがいこつ)の製作所」という見なれない言葉がありました。

ギシツガイコツとは一体? と思いつつ、漢字から意味を推測してみたのですが、

……ということはあの、ひざこぞうの、いわゆる「さら」の部分の、代わりになるもの、ということ、なのでしょうか。念のため辞書をひいてみたところ、そのものの言葉は無かったのですが、果たして「膝蓋骨」は正に推測どおりの意味でした。

特筆すべきは、依頼者の赤毛の人、ウィルスンという名ですが、その人が語ったこの言葉を、ホームズもワトスンも何の疑義も挟むことなくさらっと聞き流していることです。ということは「義膝蓋骨の製作」という現代では非常に特殊に思われる産業が、百年も前の英国では当たり前のように存在していた、とも推測されるわけで。戦争があったからでしょうか。

ともあれ、もしそんな工場が今でもあるのなら一度見学に行きたいものだなあ、と考えてみたりもします。

(2000年5月30日)

追記

北村曉 kits@akatsukinishisu.net